2012年09月21日

未来からのアップデートiPhone Xの巻

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 「色と容量、キャリアは決まっていますか?」
 朝、7時。横浜のApple Storeの前で、青いTシャツを着た女性が話しかけてきた。
 おれは、iPhone 5を発売日にゲットするために、Jimmyくんと一緒に昨晩、横浜市営地下鉄の最終で桜木町まで来て、みなとみらいエリアにあるApple Storeの前に並んでいる。Apple Storeでは事前予約はなく、当日販売されるので、確実にゲットするには早く来て並ぶしかない。これを逃すと、入荷待ちとなり、予約したとしても、いつ手に入るかわからなくなる。そんな状態で毎日ヤキモキするぐらいなら、一晩行列するぐらい、なんてことないのだ。♪ヤキモキ、エヴリデイ、ヤッハー。

 青いTシャツの女性はApple Storeのスタッフで、オープン時間の前に購入する新しいiPhone の色と容量、キャリアを確認している。
「黒の32GB、SoftBankで」
 そう答えるとスタッフから、Appleマークの入った二つ折りのカードを渡された。開いて確認すると「iPhone X/Black/32GB/Softbank」と書かれたラベルが貼られていて、整理番号が印刷されていた。
 いっしょに並んでいたJimmyくんが、おれの整理券をのぞきこんで言った。
「iPhone X?」
 そういえば、iPhone 5が発表されるギリギリまでリークされていた情報に、英国の通信事業者、T-Mobileのオンラインの内部システム上に、「iPhone X」という機種が登場したという情報があった。
http://smhn.info/201209-iphonex-iphone5-tmobile

「ああ、データベースに新機種を登録するときに、仮の名前で登録することがあるんだけど、それをそのまま印刷しちゃったんじゃない?」
「でも、おれの整理券はiPhone 5って書いてありますよ」
 Jimmyくんの整理券を見せてもらうと「iPhone 5/White/64GB/Softbank」と書いてある。うーん。心配になったので、まだおれたちの前でニコニコして立っている女性スタッフに聞いた。胸のネームプレートには「キャンベル」を書かれている。
「これ、iPhone Xって書いてあるんですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫です!それにエックスじゃなくてテンって読むんですよ」
 Macユーザには常識中の常識であることを指摘されて一瞬たじろぐ。おれもXと書いてテンと読むことは、10年以上前から体に染み付いている。それをあえてエックスと声に出していたのに。
「あ、iPhoneテンね」
 動揺を隠すために、できるだけ冷静に言いニッコリしてみた。ちょっとぎこちなかったか? それでも女性スタッフも笑みを返してくれ、
「じゃあ、またあとで」
 と、気さくな感じで言って去っていった。なんだか煙に巻かれた感じだったが、憎めないんだなぁ。おれぁ、かわい子ちゃんには弱いからねぇ。と、山田康夫の声で思ったりなんかしていた。

 Apple StoreでiPhone 5が販売されるのは8時から。あと1時間だ。尻が痛いし腰も痛い。雑誌を敷いているとはいえ、コンクリートの上に7時間以上だと全く意味が無い。さすがに列の先頭のほうで並んでいる人たちは、背もたれもしっかりあるアウトドア用の椅子を用意している人が多い。これだったら仮眠もできるな。次に並ぶ機会があったらおれもそうしよう。
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 そんな中でも今回正解だったのは、Jimmyくんと一緒に並んでいること。昨日、別の話で連絡を取ったときに、iPhone 5を買うから今晩からApple Storeに並ぶということを伝えたら、一緒に行くという。彼は相当なモバイルマニアで、iPhone 4Sの他にGalaxy Note、Galaxy Pocket、Xperia acroを持ち歩いている。そう言えば、さっきHuaweiのGP02っていうモバイルWi-Fiルータも使わせてもらったんだっけ。今日は持ってないみたいだけど、3G契約のiPadも持ってるはずだ。モバイル環境に相当お金がかかっていると思うのだが、それについては特に聞いたこともない。

 列に並んでからお互いのモバイル環境や近況を話していたら、あっという間に時間が過ぎた。話が弾んでビールでも飲みたいぐらいだが、もちろんこういうところで飲まないという常識は身に付いている。トイレも近くなるからやめたほうがいい。
 トイレで思い出したが、ちょっと列を離れるときでも相棒がいると気楽だ。もっともこれだけ長く並んでいると知らない人たちとも仲間意識が生まれて、ひとりで来ていても、周りにちょっと声をかけて吉野家に牛丼を買いに行っている人もいる。気をつけないといけないのは、たまに「ちょっと離れますから、ここお願いします」と言っても、「それは私の決めることじゃないから、スタッフに言ってください」と、なんだか、あまり仲良くなりたくない感じの人もいることだ。

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「akibyon、幕がはずれたみたいですよ」
 JimmyくんがApple Storeのほうを見て言った。昨晩からショップの内側に幕が降ろされて準備をしている様子が見えないようになっていたのだ。その幕が外された。iPhone 5だ。遠くから見てもその薄さが分る!早く手にしたい!
 店の中では青いおそろいのTシャツを来たスタッフが整列して、カウントダウンの準備をはじめているようだ。

「テン、ナイン、エイト、セブン」
 入り口のスタッフがカウントダウンを始めると、列の先頭のほうからカウントダウンに合わせる声が広がり始めた。
「シックス!、ファイブ!、フォー!」
 おれもJimmyくんも自然にカウントダウンをはじめる。
「スリー!、ツー!、ワン!」
「ゼロ!」
 と同時に、Jimmyくんとハイタッチ、周囲の知らない人たちとハイタッチ。ハイタッチ、ハイタッチ。1分のうちに一年分のハイタッチをしただろう。


 しばらくして列が動き始め、おれもJimmyくんもApple Storeの店内に入れた。そして青シャツスタッフともハイタッチ、ハイタッチ、ハイタッチ。店の外にはテレビカメラを持った人などマスコミも多数。横浜のApple Storeでもこんなに取材に来るんだな。あ、TVKのテレビカメラもある。神奈川県初のAppleStoreだけに、TVKも力が入ってる!

 しばらくしておれの番になった。受付スタッフは、さっきのキャンベル。つい名前を口にしてしまった。
「あ、キャンベル」
「おはようございます。名前覚えていてくれたんですね」
「いや、まあ、なんか印象的だったので」
「それは良かった。では、手続きを始めますね」

 Apple Storeではスタッフとカウンター越しに対面する形ではなく、テーブルの角をはさんで横に並ぶ。これがさりげなくフレンドリーな感じが重要なのだ。
 キャンベルは、プランやオプションの説明をしながら、手際よく手続きをしてくれた。自分が使えるキャンペーンやテザリングオプションのことなどは、ネット上の情報を見てもよくわからないので、疑問に思っていることをできる限り聞く。
 テザリングオプションを利用するには、月額5,985円でパケット通信7GBまでの制限がある「パケットし放題フラット for 4G LTE」への加入が必要ということだが、なんとテザリングオプションを申し込めば、iPhone 5専用に作られた「パケット定額 for 4G LTE」と同じ月額5,460円となり、テザリングオプション月額525円の費用は、開始後2年間は無料だという。その上、テザリングサービスが開始されるまでは、7GBの制限もないということだった。自分の場合、7GB制限はあまり問題ではないと思うので、もうテザリングオプションを申し込まない理由がなくなった。

 後日、SoftBankのサイトに下記のようなページができていた。

「iPhone 5 のお支払いイメージ(テザリングオプションあり)」
http://mb.softbank.jp/mb/iphone/price_plan/change/tethering/

 今回はサーバートラブルもなく、申し込み手続きはスムーズに進んだ。キャンベルは、おれのiPhoneの箱にかかっているフィルムに、裏側からカッターナイフを入れながら言う。
「私も今日、初めて開けるんですよ。傷などないか確認してくださいね」
「薄いなー。それに軽い」
「責任は重いですけどね」
「え?」
 キャンベルは急に真面目な顔になったが、すぐに笑顔になり、続けた。さっきのiPhone Xのときといい、時々不思議なことを言う。
「大事してくださいね」
「もちろん!」

 今回も一括で購入。払う金額は同じなんだけど、本体の代金を2年間も払い続けるなんて、どうも落ち着かない。Jimmyくんよりも一足先に手続きが終わったおれは、店の外で待つことにした。

 Apple Storeを出てからすぐに、iPhoneに電源を入れた。電話としては使えるようになっているのだが、中身は空っぽなのでアプリを使うことはもちろん、音楽を聴くこともできない。
 と思っていたのに、画面に表示されていたAppleマークが消えた途端、見慣れたホーム画面が目に飛び込んできた。今まで使っていたiPhone 4Sと同じ。アプリもインストールされている。iCloudで復元されたのかな? iOS 6にそんな機能あったっけ?

 アプリを起動したり、設定画面をいじっていると、女性の声がした。
「重要なアップデートが1件あります」
 さっきApple Storeで対応してくれたキャンベルの声だった。声でわかっちゃうのは声優マニアの性(さが)である。振り向いてショップのほうを見るが、誰もいない。
「あなたがいるところ、どこであれ、それが私のいる場所です」
 声は、iPhoneからだ。
「Siri?」
「はい。正確には、それは私の祖母の名前です」
 流暢だが少し外国人訛りを感じる日本語が応える。やっぱりキャンベルだ。
「すごい!iOS 6のSiriって、自分から話しかけてくるようになったのか!」
「いいえ、akibyon。私はあなたが知っているSiriのプロトタイプではありません。それにあなたの使っているiPhoneにインストールされているシステムは、たった今、iOS Xにアップデートされました」
「ええ!?重要なアップデートって、これのことなの?」
「そう。このiPhoneは5と見た目はほとんど同じですが、ハードウェアもアップデートされて、今から5年後に発売されているiPhone Xになっています」
 5年後って。面白い冗談だな。いたずらにしては手が凝り過ぎだよ。iPhoneを申し込んだときの確認書を見直す。
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 機種名が「iPhone X」になっている。担当者の名前をよく見ると。
「キャンベル Siri あや子?」
「そう、ミドルネームは祖母からもらった名前。私は5年後の未来からやって来ました。akibyon 、あなたに未来が正しいタイムラインに戻るように、歴史の修復をして欲しいのです。5年後の世界は、サムスニアという企業がすべての情報を掌握し、人々の生活や企業の活動を統制しています。その始まりが2012年。そう。現在なんです」

 Siriが言うにはこうだ。現在AppleとSamsungで争っている、iPhoneとGalaxyの特許訴訟は今後更に泥沼化する。これについてはAppleが勝利するものの、Steve Jobs亡き後のAppleは、魅力的な製品とそれを取り巻く新しいライフスタイルを提案することが次第にできなくなって行くのだそうだ。それと反比例するように、Samsungが輝きはじめ、人々はGalaxyの新機種を手に入れるために、Samsung Storeに行列を作るようになった。もちろんSamsung StoreもApple Storeのコピーだ。
 一方のAppleは、iPhone 3G→3GS→4→4S→5というネーミングのサイクルから「S」を外した。そして、6→7→8→9→Xとアップデートのたびにデザインを大きく変更し、新しさをアピールする戦略に出るものの、デザインだけを変化させて使い勝手が悪くなる、今のAndroidスマートフォンのようになってしまった。5年後のAppleは、Appleらしさを見失い迷走し人気を失っているのだそうだ。

「それを、そうならないようにしろってことなんだね?」
「そうです」
「で、どうしたらいいの?」
「さあ、それは私にもわかりません。あなたが救世主であることをSJから伝えられただけなので」
「SJ?って何?」
「これ以上は、禁則事項です」

 参ったなー。変なことに巻き込まれたみたいだぞ。
「あ、Jimmyさんが出てきましたよ。私が今話したことは誰にも知られないようにしてください。あなたがサムスニアから人類を守る救世主たらんことを切に願います」
 言えるもんかい。こんなこと話したとしても、おれがブログのネタとして考えた作り話としか思われないよ。

「Jimmyくん、さっきのApple Storeのスタッフでキャンベルって女の子いたでしょ?」
「え?いつ?」
「覚えてないの? iPhone Xとかなんとか言ってた話なんだけど」
「ああ、ブログのネタですか」
 やっぱりな。おれも徹夜の行列でなんか夢を見てたのかもしれない。しかしどこからが夢なのかよくわからないや。だって、横浜にApple Storeなんてないし、おれはヨドバシカメラにiPhone 5を予約してるんだし。まだ夢の中なんじゃないだろうか。
「そう言えば、未来から来た割には、あや子って渋い名前だったなぁ」
「気にしてるので、それは言わないでください」
 と、ポケットに入れたiPhoneから声が聞こえたような気がした。

Apple Storeの写真はCamCamさんに協力していただきました。ありがとうございます。
http://camcam.info
ラベル:iPhone 5
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2012年09月13日

人呼んでモバイル戦士クイッカマン!の巻

iphone x quickcaman
「完成!リアリティ・ディストーション・フィールド(現実歪曲空間)!」
 周囲の半径10メートルの空間が半球状の光のドームに包まれた。
 3メートルを超える巨体の敵が一瞬ひるみ、横にはらった大剣が空を切る。
「今だ!」
 おれは正面の大男に向かって駆け寄り、目前で高く跳んだ。
「必殺!クイッカレーザーブレード、雷・撃・落とし!」
「雷撃落としを実行します」
 腰にセットしたiPhone Xが冷静な女性の声で答えた。手にした剣が光を帯びる。それに呼応するように周囲のドームに蓄積していたエネルギーが剣へと注がれ始め、光は一層輝きを増していく。周囲の空気はプラズマ化され、リアリティーディストーションフィールドがイオンで満たされた。
 跳躍の頂点で剣を素早く逆手に持ち替え、落下と同時に刃を敵の頭上めがけて突き立てる。
「うぉりゃあああ!」
 視界から消えたおれが、自分の頭上にいることにようやく気がついた大男は、防御の体勢を取ろうとしたが、こちらが一瞬早い。剣に注がれ続けているエネルギーが切っ先から放たれた。雷の刃が敵の巨体を脳天から貫く。
「ぐがっがががががが」

「とぉ!」
 雷の刃に貫かれながら仁王立ちになっている大男の両肩を蹴って反転ジャンプ。
おれは着地すると同時に、敵に背を向け剣を収めた。

「デッド・エンドッ」
そう言うと、プラズマ化した大気が大男の中心部に向かって、一気に収束する。超小型のブラックホールだ。現代のヒーローは戦闘の後始末も重要な使命だ。
 大男はジニーエフェクトで亜空間へ吸い込まれながら叫んだ。
「ク、クイッカマン、お前はいったい何なんだぁぁぁぁ!」

両手を左右に開き、体を右にひねる。
「Mac大好き!」
ゆっくり頭の上で交差。
「iPhone最強!」
そのまま腕を胸の前におろす。
「人呼んで」
左手を握りしめながら体を左にひねり重心を左足に移動。右手で天を指す。
「モバイル戦士クイッカマン!」

 そう叫ぶと同時に、敵を飲み込んだ小型ブラックホールとリアリティ・ディストーション・フィールドは消滅し、おれの変身も解かれた。

「akibyon、素敵な決め台詞ですね。ポーズはちょっとバロムワンみたいですけど。今後もサムスニアからiPhoneを守り、歴史を正しいタイムラインに修復する救世主たらんことを」
 腰にぶら下げたiPhone Xが女性の声でそう言った。
「ちぇ。Siri、きみこそ、Juizみたいじゃないか」
 おれは、iPhone Xにインストールしたアプリで、現在予測される未来と、真の未来との差が、5%縮まったことを確認しつつ、日が昇り明るくなっていく横浜の空を見ていた。
posted by akibyon at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | クイッカマン | 更新情報をチェックする

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